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おへそ仲間の声

誰かと一緒に見る夢|移住コラム vol.3

2017/12/08

沖縄生まれ、東京から恵那山麓に移住して1年と半年。古本屋「庭文庫」店主として活動しながら、恵那山麓の四季折々の風景や普段の暮らしを綴るコラムです。

庭文庫 

昔から、夢のない子どもだった。

犬猫の殺処分がゼロになるといいな、とか、子どもが3人欲しい、とか、ふんわりした希望はずっとあるけれど、こういう職業に就きたい、という具体的な目標は持てないまま大人になった。

就職活動のときも、業務内容そのものよりも、人事担当の肌つやや話し方ばかり気になった。ハードワークは向いていないことがわかっていたから、隈がひどかったり、肌があまりにもかさかさな人のいる会社はどれだけ業務や福利厚生が魅力的でも受けなかった。結局、就職を決めた会社も、決め手は女性社員の肌の綺麗さだった。(夜、良く寝ていそうな感じ。)

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そんな肌つやの良い先輩たちのいる会社も辞めて、2016年3月末に引っ越してきてから半年は無職だった。

空を見て、散歩して、漫画を読んで、本を読んで、10時間くらい寝た。
そんな風にしているうちに、いつのまにか古本屋さんになりたくなった。

最初に思いついたのは、古本屋より先に出版社だったような気がする。
『計画と無計画のあいだ: 「自由が丘のほがらかな出版社」の話』を読んで、あ、わたしがしたいことはこれだ、とおもった。でも、出版社は元手がかかりそうだし、編集の技術も知識もないと怖じ気づいた。出版社からなんで古本屋さんに変わったのか、覚えていない。というか、前職の同期が言うには、東京にいるときから、恵那に行ったら古本屋さんをやる、と言っていたらしいが全く記憶にない。記憶障害かもしれない、とおもうくらい覚えていない。

そんな結構曖昧な感じで、26歳にして突然職業としての夢ができた。

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唐突だけれど、わたしは今、恋人と住んでいる。
ももちゃん、と呼んでいる彼は、いつもとってもキュートだ。

夢ができて楽しいなあと思う度、ももちゃんに感謝する。
古本屋さんがしたかったり、いつか出版社をしたくなったりしたのは、ももちゃんのおかげだからだ。

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別に、人から見て特別な長所があるわけではない。
ゆっくり話して、かわいく笑うももちゃんが、「一緒にやろう」と言うだけでパワーが湧いてくる。

部屋の掃除はもちろん、デスクもカバンの中も、車内もぐちゃぐちゃで整理整頓できないわたしが、物を扱う古本屋さんになれる気がしたのは、隣に彼がいるからだ。

ももちゃんのおかげで、ひとりでいるよりもずっとずっといろんなことができるようになった。

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恵那は、ひいては、地方は小さな夢を見やすい土壌があるのかもしれない、と最近よく考える。

都市部で何かをはじめるには、覚悟とお金が必要になる。そもそも店舗代が高い、倉庫代が高い。
びびりなわたしは、何百万も何千万も借金して、新しい事業をはじめる覚悟なんてない。

恵那ならどうだろう。
土地代は安い。競合店は少ない。すぐに新聞にも載せてもらえるし、話題にしてもらえる。人口が少ない分、集客は大変だけど、それでも出張古本屋さんには、毎回近くからも遠くからもお客さんが来てくれていた。
恵那でお店をはじめても大金持ちにはなれないかもしれないけれど、わたしたちが食べていく分はなんとかぎりぎり踏ん張れそうな気がする。

うまくいくのか、いかないのか、保証はないけれど、コストがあんまりかからない、ということはスタートさせる上でとても大切な事実だった。

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そうそう、庭文庫をはじめることができたきっかけは、えなここの園原さんなしでは語れない。
無職時代に古本屋になりたくなって、2016年10月から恵那市地域おこし協力隊として働きはじめたところまでは良かった。

そこから「古本屋さんをしたい」と周りに漏らしてはいたものの、特に何かをしているわけではなかった。何をしているわけではないのに、ずっと応援してくれていたのは、えなここの園原さんだった。なぜだか出会った時から、彼女は諸手を挙げてわたしたちを後押しをしてくれていた。

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2016年の年末、えなここの忘年会で酔った園原さんは
「はじめなよ、古本屋。来月のえなここマルシェで出店しようよ。」と持ちかけてきた。
(絡んできた、とも言う。)

どきどきした。酔っぱらいの世迷いごとを本気にしていいのか。
忘年会の明るく楽しい雰囲気に流された、というより出店しない理由が見当たらなくて、年明けのマルシェに出店することにした。

ツイッターで本を募集したら、全国津々浦々から本を送ってくる人たちがいて、在庫は30冊から数百冊を超えた。そうして、忘年会から2週間で店名を決め、WEBをつくり、いろんな人が古本を送ってくれて、晴れて庭文庫はスタートできた。

初出店した日は、ばたばたしながらも、楽しくて嬉しくて、園原さん以外にも、庭文庫を応援してくれる人たちがいることを知って、なんだかみんなで楽しい夢を見ているような気持ちがした。

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きっと春には恵那市笠置町の木曽川沿いの素敵な古民家で古本屋「庭文庫」の店舗がオープンする。
古本屋さんになりたくなって、2年弱。出張古本屋さんとして活動して、そろそろ1年。
ふたりが食べていけるようになるには、まだ道のりは遠い。
でも、うまくいっても、いかなくても、やっぱりはじめることができたことに、ひとつの嬉しさを感じている。

夢がある、ということは、ある種の特権だとおもっていたから、まさか自身がそうなるなんて考えてもみなかった少女時代にタイムスリップして、こっそり耳打ちをしたくなる。いつからでも、どこでも、楽しいことははじめることはできるよ、って小学生の自分に言ったらきっとびっくりするだろう。

今の庭文庫は、吹けば飛ぶような小さな灯だけれど、ここからまた、誰かの楽しい夢がはじまったらいいな、とにやにや考えている。

 
おすすめの一冊
『夢の逃亡』安部公房著

古本を好きになったきっかけは、安部公房のこの本だ。

数年前、高円寺の古本市で500円で叩き売られていたところを見つけて、何度も何度も繰り返し読んだ。読んだ後はいつも当たり前だと思っている日々が奇妙なものに思えて、住んでいるところが、知らない街に見えた。

この本の裏表紙には、万年筆の青いインクで猥褻、猥褻と書かれていた。
なぜだろう、わたしはその文字を愛した。

いつか誰かの読んだ本が、まわりまわって家の本棚に収まり、毎日を変えてしまうことに身震いをした。

持ち主が死んでしまったあとも、誰かに本が手渡され、記憶の断片が生き続けていくことがあることを、わたしはたった500円のぼろぼろの本で知った。


この記事を書いた人

中田 実希

名前   中田 実希

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古本屋「庭文庫」店主兼恵那市地域おこし協力隊。 沖縄県那覇市出身、大阪市立大学卒業後東京のイベント企画会社勤務。 2016年3月、岐阜県へ移住。 草木染めと読書が好きです。

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